東京の鍾乳洞「大岳鍾乳洞」 5

 バスまでが来るまでは時間があったので、日陰でスマホを弄る。調べたのはさっき見かけたヘビの種類だ。知ってどうこうということは無いが、単純に気になった。

 調べた結果、本州に棲むヘビで体色に赤色を持つのは一種類のヘビだけだった。ヤマカガシである。有毒ヘビだ。

 それを知って、私は二つの幸運に感謝した。一つは、死亡例もある毒ヘビのヤマカガシが路上ではなく側溝に落ちたこと。お陰で噛まれなくて済んだ。

 もう一つは、私がそのヘビがヤマカガシだと知らなかったことである。もし予備知識によりそのヘビがヤマカガシだと分かっていたら、私は確実にそこで引き返していた。それくらい当時の私は精神的にはギリギリだった。しかし、私が側溝でヤマカガシに遭遇した時知っていたのは「日本には有毒のヘビより無毒なヘビの方が断然多く、毒を持ったヘビは本州には二種類(マムシとヤマカガシ)しかいない」ということだった。まさかその二種類のうち片方だとは考えもしなかったが、お陰で「噛まれても(確率的には)大丈夫」と考え先へ進めたのだ。生半可な知識が良い方に働いた。

 私は脱力し、「もう二度と歩いて行かねえ」と思った。次行く時は誰かの車に相乗りする時だ。それくらい精神的には辛い場所だった。ヘビに慣れてたりする田舎暮らしの人にはどうってことない道だろうが、私は世界有数の大都会東京で人生の3分の2を過ごしている。過去には田舎暮らしの時期もあったが、その日々は記憶の彼方である。





 この辺りで、大岳鍾乳洞について簡単にまとめようと思う。旅の候補とする際に参考にしてもらいたい。


 まずアクセス面について。私は今回公共交通機関を用いてやってきたが、個人的には自家用車で来る方が良いと思われる。

 まず一つに、バスの本数があまり多くない。一日9往復は山間部の路線としては多いが、間隔は30分から2時間半まで開きがある。もし帰りのバスの時間と合わなくても、大岳鍾乳洞入り口のバス停付近に時間を潰せる施設は無い。裏技としてタクシーという手もあるが、かなりの出費になる。

 また、大岳鍾乳洞までの林道も山道の為健脚向けとまでは言わないが足に自信の無い人にはお勧めしない。道自体も夏は暑く、冬は寒くなるだろう。六月の時点で既にかなり暑かった。避暑地として需要の高まる夏本番は熱中症に注意が必要だろう。

 また、自家用車で行く場合は近くの三ツ合鍾乳洞にも寄ることで鍾乳洞をはしごすることも可能である(徒歩だと三ツ合もバス停から遠いのであまり現実的では無い)。大岳鍾乳洞の上にある大滝も徒歩なら鍾乳洞から三十分かかるが、車なら大幅な時間短縮ができる。

 一方、自家用車で行く場合も注意点がある。大岳鍾乳洞へ向かう林道は舗装釜ギリギリ二車線程度しかない。明かり区間であれば一応舗装の両脇には余裕があるので舗装をはみ出してすれ違えるが、例のトンネルの中はその余裕が無い。その際には慎重なドライビングテクニックが必要と思われる(免許持ってない人間の戯言)


 観光地としての内容であるが、これは「そこそこ」といったところ。現地の看板にも「小規模」とあるように、普段私たちが想像するような鍾乳石のある部分は少ない。なので、それを想像して入ると拍子抜けするかもしれない。しかし、著名な鍾乳洞はその多くが東京より離れた場所にあるが、ここであれば日帰りの観光も可能だというアドバンテージがある。鍾乳洞初心者が「体験」をするには最適の場所ではないだろうか。既に鍾乳洞を見たことのある人には物足りないかもしれない。


 最後に、ある意味観光地を選ぶ際に重要な基準ともなる混雑具合も推測したいが、今回は無理である。そもそもコロナがあって県外からの観光客が殆どいない上に同じ都内の鍾乳洞である日原鍾乳洞が昨年の台風の影響で休業中で、客観的な判断ができない。が、立地的には無茶苦茶混む、といったことは無いだろう。混むとしても穴場スポットの範疇がら抜けるほど混むことは無さそうだ。